【若い⼈に種を蒔く「いのちの授業」】    


   髙宮有介(昭和大学医学部 医学教育学講座)

 小中学生、高校生に、「死から生といのちを考える」、所謂「いのちの授業」をするようになって30年がたちます。伝えたいと思っていることは3つです。一つは、死を通して、いま生きていることに感謝し、今日を生き切ること。二つ目に、自分が生まれてきた意味や役割を考えてみること。三つ目に、自分の夢を描き、はじめの一歩を歩みだすこと。その時の出会いが、彼らの人生にとって、何か変化するきっかけになればと考えています。というと大げさに聞こえるかもしれませんが、私自身、ある予備校教師との出会いで、人生が変わった経験があります。
 文系志望で浪人していた私には衝撃でした。英語の教師のキーワードは死。「人は皆死ぬ。私もこの教壇で死ねたら本望。今日一日を生き抜くんだ。君達の中には素晴らしい力がある。まだ、君達は知らない。どんな人生を生きるんだ。」雷に打たれた気がしました。憧れていたけれども、どこかで逃げていた医師への道を歩み始めた契機となりました。「いのちの授業」は、子供たちのそんな機会になればと思い、毎回全力投球をしています。
 講義の冒頭の掴みは、私が女装して山本リンダを踊る動画。メッセージは、「患者さんの笑顔がみたい」です。全人的痛みのスピリチュアルペインも紹介しています。「何故、自分はこの世に生まれて生きて死んでいくのだろうか。自分の生きてきた意味は、役割は何か」子供たちへの最初の問いかけでもあります。そして、小学校5年生で亡くなった宮越由貴奈さんの詩「命(いのち)」を通して、いのちの大切さを伝えています。
 医師として緩和ケアに携わって30数年になります。多くの患者さんとの出会いと共に、いくつもの別れがありました。寂しさがなかったと言えば嘘になりますが、亡くなった患者さんはどこかで自分を見守ってくれていると信じています。そして、この仕事を続けてきた原動力は、亡くなった患者さんが遺した言葉や行動です。それらは大きな贈り物(ギフト)となっています。そんなギフトを子供たちに伝えています。
 23歳の女性は、乳がん末期の状態で念願の結婚式の準備をしました。骨転移の体動時痛は、オピオイドで緩和できませんでした。しかし、式が近づくにつれ、取り切れなかった痛みが和らいでいきました。特に薬剤は変更していませんでした。患者さんの夢や希望を支えることで痛みが和らぐことを教えて頂きました。
 講義では、さらに患者さんが遺した闘病記や日記、手紙を通して、子供たちが死から生やいのちを考える機会にしています。患者さん達の言霊を伝えながら、自分自身が死をみつめる好機でもあります。参加した皆様を子供たちに見立てて、講義をさせて頂きます。


髙宮有介(たかみや ゆうすけ) 
昭和大学医学部 医学教育学講座 教授
【略歴】
1985年 昭和大学医学部卒業、外科学教室入局
1989年 英国ホスピスで研修
1992年 昭和大学病院内で緩和ケアチーム活動開始
2001年 昭和大学横浜市北部病院 緩和ケア病棟に専従
2007年 昭和大学医学部 医学教育推進室に専従
2018年 昭和大学医学部 医学教育学講座 教授に就任
医療系大学の学生、医療者向けに、死から生といのちを考える講義を発信している。
2015年からは医療者自身のケア、マインドフルネスを講義、講演をしている。
【学会役員】
大学病院の緩和ケアを考える会 代表世話人、教育部会員 
日本死の臨床研究会  世話人代表
日本GRACE研究会 世話人代表
日本ホスピス緩和ケア協会 理事
日本緩和医療学会 代議員
日本医学教育学会 代議員、認定医学教育専門家
【著書】
「物語で学ぶ緩和ケア~みんなでめざすチーム医療」(へるす出版:2021年)
「セルフケアできていますか?」(南山堂:2018年)
「臨床緩和ケア(改訂3版)」(共著.青海社:2013年) 他