【本人・家族の希望を尊重した施設での看取り】


   奥原ます子(社会福祉法人雄人会介護老人保健施設のむぎ施設長)

    『ともにより添い、ともに笑い「人として生きる」を支えます。』 これは、当施設の理念です。
 松本市西部に在る単独1施設の介護老人保健施設です。
 私は急性期病院に長く勤め、多くの入院患者さんを看取ってきました。特に高齢者施設から、心臓マッサ-ジをしながら救急搬送され、救急外来で看取るか、入院し数時間後に、という事例が何度もありました。その度に、この方々は、こんな風な最後を望んでいただろうか、と疑問に思い、施設関係者に尋ねたこともありましたが、「わからない」との事でした。
 この施設に就任し、協力病院に挨拶に行った時、全く同じような言葉を返され、施設での看取りに取り組んできました。 今でこそ、ACP = 高齢者の意思決定支援 が課題となり取り組まれていますが・・・。
 平成30年、介護保険施設の役割りが明確に示され、介護老人保健施設の役割りは、在宅復帰を目指す・ 在宅療養を支援し、在宅時々「施設」を実現する施設、と目的が一番はっきりして、その役割が期待されています。しかし、現実には難しいです。
 松本市波田・梓川の利用者が70%で、農業を営み、スイカ・リンゴの時期・農繁期だけ入所は4~8ケ月間の利用となります。冬期間の越冬の利用も歳を重ねる毎に期間が延びてきます。特養待ちで行き場がなく、最後までここで、を希望する利用者もいます。
 このような地域の中で、在宅復帰を目指した強化型より、在宅療養を支援しつつ、無理のない加算型で地域のニ-ズに応える事が自施設の存在意義と役割だと再確認しました。
 デイ・ショート入所を繰り返しながら、在宅生活を続け、いよいよとなったら、看取る事を希望し入所するケースもあります。当施設では、年間10~12名の方を看取っています。 タイミングをみつつ、家族の意思を確認し、看取りについて話し合い契約しますが、契約してから3年半が経過し、松本市1番の長寿で108歳を迎え、今も自力で食事摂取し過ごしている方もいます。
 多くは、「ここで看取ってもらって良かった」「〇〇さんらしい最後だった」と思える看取りができたと思えますが、後悔が残ったケ-スもあります。
 コロナ禍での施設運営・看取りから、多くの事を学びました。
 まさに、今回の サブテ-マにあります 「~人生を『こんなはずでは』で終わらせないために~」 を考えてきました。感染対策を徹底し、家族の理解と協力を得て、土・日の予約面会、看取り期にある方の面会と付き添いを可能にしてきました。季節ごとの年間行事も可能な限り実施し、少しでも日常の楽しみがあり過ごせるよう考えてきました。
 別れの時が必ず訪れる高齢者施設で、「看取ること、看取られることを見据えて、今、を生きる」 をどう支えていくか、まだまだ課題はありますが、事例を通して考えてみたいと思います。