【死が差し迫った人にどう対応するか】
救急集中治療領域における緩和ケアを考えてみる    


   木澤義之(筑波大学医学医療系 緩和医療学)

 緩和ケアはWHOにより以下のように定義される。「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みや その他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」
 つまり、緩和ケアは病気の時期や場所を問わず、患者・家族のニーズに応じて提供されるものであり、救急・集中治療においても終末期のみに提供されるわけではなく、必要に応じてER/ICUへの来院・入室とともに始まることが望ましい。
 救急集中治療における緩和ケア・終末期ケアの課題として以下のものが挙げられる。1)症状の頻度が高いにもかかわらず十分な対処が行われていないこと、2)患者・家族とのコミュニケーションが遅い・スタッフ間で断片的なコミュニケーションが行われ家族が情報を統合できない、3)医師と患者・家族がケアの目標について話し会う場が十分になく家族が疑問や不安を解消できない、4)医療スタッフが家族に共感を示す場がなく家族の気持ちのつらさが置き去りにされ、その結果家族は代理決定に必要な情報の統合や咀嚼ができない、5)必要でないICUの滞在や死亡がある、6)退院/転床支援の際に患者家族に十分なサポートが行われていない、7)医療スタッフのバーンアウト、抑うつに対応できていない。
 これらの問題に対応するためには、緩和ケアの役割として以下の5つ、1)身体的、心理的、スピリチュアルな苦痛の緩和、2)患者の価値観と状態に合わせたケアの目標・予後・の話し合い、3)患者の希望にあわせた治療・ケアの実施、4)治療・ケアの場の移行・退院調整、5)スタッフのサポート、を明確に意識し、それぞれについて医療スタッフ自身が実施する基本的な緩和ケアの知識とスキルの向上を図る一方で、緩和ケア専門家の助言を得ることで、より緩和が困難で複雑な問題にも対応する必要がある。日本の緩和ケアはがんを中心に発展してきているが、われわれも救急集中治療領域におけるさらなる学びが必要であることを痛感している。